鉄の機能・食事
多くの女性が経験する貧血症状(ふらつき・疲労感など)鉄不足による症状は様々で、鉄は心身の安定にも大きな役目をしています
本章は46億年前に地球が誕生した時から存在し、生物の進化・人間の生命に不可欠な金属「鉄」のお話です
本章を読んでわかること
- 鉄の役割
- 食事と鉄の吸収
- 鉄欠乏性貧血・鉄不足による症状
- 鉄が関わる物質や酵素
鉄の役割
人間の体には3~4gの鉄が存在します
そのうち65~70%は機能鉄と呼ばれヘム鉄(赤血球のヘモグロビンの成分)として取り込まれ酸素と結合し全身に酸素を運びます
血液が赤いのはヘモグロビンの鉄が酸素と結合したことによる色素です
約30%は「貯蔵鉄」といわれます
肝臓・骨髄・脾臓などに蓄えられ機能鉄が不足した時使われます
残り数%は運搬鉄として筋肉の成分と結合し、酸素運搬・貯蔵・代謝反応に関与します
- 酸素を運ぶ 細胞へ取り込む
- エネルギー産生
- 老化(酸化)を防止する
- 成長を促進
- 造血
- 全身の機能を整える
鉄と神経伝達物質
「鉄」は心身の機能維持にも重要
鉄は各種アミノ酸からノルアドレナリン、セロトニン・メラトニンが作られるときの酵素が働くのに必要な成分なため「うつ病」や「パニック障害」など、また病名が付かないものでも不足はいろいろな心身の不調の原因にもなり、注意力低下、食欲不振、抑うつ感などが起こりやすくなることもあります
参考
Lフェニルアラニン ⇨Lチロシン ⇨Lドーパ ⇨ドーパミン ⇨ノルアドレナリン
Lトリプトファン ⇨5HTC ⇨セロトニン ⇨メラトニン
⇨の経路で鉄が必要とされます
吸収 食品中の「鉄」は吸収率約15%
十二指腸~空腸上部で吸収されます
たんぱく質と結合した「ヘム鉄」と結合していない無機鉄(非ヘム鉄)に分けられ
ヘム鉄の吸収率は10~30%程度 非ヘム鉄は5%程度で極めて低いです
ヘム鉄は小腸(腸管上皮細胞)からそのまま吸収され細胞内で分解されます
非ヘム鉄はビタミンCや鉄還元酵素・胃酸などの役割で吸収されやすい形に変えられ吸収されますが、亜鉛や銅と競合します(亜鉛・銅と同じ場所から吸収されます)
また非ヘム鉄は副作用としてヘム鉄の比べ消化管症状が起きやすいです(内服の鉄剤は全て非ヘム鉄です)
非ヘム鉄はアスコルビン酸(ビタミンC)、たんぱく質、アミノ酸などと同時に摂取することで吸収率が高まります (ビタミンCサプリメントなどで補助することにより、時に3~4倍)
鉄製の調理器具を使用すると鉄が溶け出して食品中の鉄の量が増えます
コーヒー、紅茶、緑茶に含まれるタンニンは体内で鉄と結合し鉄の吸収を妨げるため食事中は多く飲みすぎないのが望ましいです
鉄吸収を助ける たんぱく質、アミノ酸、ビタミンC、胃の環境を整える
吸収抑制する フィチン酸、タンニン、シュウ酸
ヘム鉄高含有例
100gあたり
- 豚レバー 13mg
- 鶏レバー 9mg
- 牛もも赤肉 2.7mg
- カツオ1.9mg
鉄として1日15mgくらい摂取が理想で結構な量をたべないとです
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性の貧血の症状改善にはヘム鉄のサプリメント等を3~6ヶ月くらい服用する必要があります
全身の機能を維持するためには「貯蔵鉄」」を増やすことが必要でさらに数ヶ月摂取継続が望ましいです
所見・症状
粘膜や皮膚の萎縮と機能低下 神経症状 運動機能の障害 心負荷増大による心肥大、STTの上昇 月経異常、妊娠維持や分娩に異常 小児の知能の発達低下、情緒不安定、注意力散漫 易感染性(細胞性免疫の低下) 寒がり傾向になる フリーラジカル障害、過酸化脂質の増加 溶血反応 コラーゲン形成不全 認知能力の低下 など
鉄が不足する原因
胃切除、無胃酸、ダイエットや偏食など吸収がされにくい状態
胃酸がないと植物性食品に含まれる鉄の吸収が非常に落ちます
妊娠・授乳・成長期・運動時など需要が大きい場合
出産時胎盤排出するとき鉄を失い、胎児に十分な量の鉄をしっかり与えていることと、授乳中月経始まるのもその要因となります
スポーツ時も筋肉を動かすため鉄を消費します
月経・婦人科疾患(子宮内膜症・子宮筋腫)・消化管出血(がん・消化管潰瘍・痔)などでの喪失が亢進
鉄分は食べ物などから1日1mg程度吸収され汗や便や尿などから1mg排出される、原則は少なく吸収され、少量が排泄され再利用される元素です
月経がある年齢の女性はこれに加え、月30mg程度の排泄もあり必ずと言ってよいほど鉄が欠乏します
もし消化管で100m Lの出血があると50mgの鉄を喪失します
アミノ酸キレート鉄(海外サプリメント)
国内では作られていないアミノ酸と結合し鉄の吸収率を高めたサプリメント
普通の鉄は消化管で吸収を調節され、過剰症を防いでいます
鉄が体内で不足するとその吸収率は高くなり、排出量は減ります(鉄代謝の恒常性)
過剰に吸収され機能鉄が満たされるとフェリチンとして蓄えられます(腸管上皮細胞の中などに)
腸管上皮細胞の剥離に伴って消化管内に排出されます
アミノ酸キレート鉄は吸収は非ヘム鉄ともヘム鉄とも違う輸送体(経路)からされ排泄も小腸細胞が剥がれてもほぼされずに、フェリチンへも多く(時に機能鉄が充足されなくても)移行すると言われています
過剰状態でも吸収されます
自然な形の吸収ではないため鉄としての機能を十分補えない可能性とあわせて過剰症が懸念され、医療機関で検査なしに長期服用には推奨されません
ALA(アミノレブリン酸)
疲労がちな方等に推奨されてサプリメントなどでも販売されており、エネルギーを作る機能分子の原料になる重要な物質
グリシン(アミノ酸)から体内で作られ、亜鉛・ビタミンB6などの補助により鉄と結合しヘムとなり、へモグロビン(ヘムタンパク質)として造血・酸素の運搬などに作用します
亜鉛・ビタミンBの欠乏でも貧血になることがあります
ヘムタンパク質
- ヘモグロビン:酸素運搬・造血
- ミオグロビン:筋肉組織に酸素を取り込み貯蔵
- ミトコンドリアの電子伝達系と呼ばれるシトクロム:ATPなどエネルギーを産生する
- 薬物代謝酵素:肝臓での解毒・薬の代謝・脂肪酸代謝
- カタラーゼ:活性酸素を減らす 抗酸化効果 (活性酸素は細菌を倒したりするが多すぎると消化器症状や皮膚・臓器の老化などの原因にもなる)
- 一酸化窒素合成酵素:血管を拡げたり、血液をさらさらにしたり、殺菌などの役割をするNO(一酸化窒素)を作る酵素
- ペルオキシダーゼ:抗酸化効果 酸化ストレスを防ぐ 種類は多数
上記全て鉄が使われるヘムタンパク質です
まとめ
鉄は酸素を運ぶヘモグロビンの原料、筋肉を動かす、メンタルを正常に保つ、老化の原因となる過酸化物を減らす、薬物を代謝(解毒)する等、健康維持に不可欠
できる限り自然な食材(肉類など)からヘム鉄として自然な形で補う
消化吸収できる胃腸の環境を整える
ビタミンC・B類、亜鉛、タンパク質などといっしょに摂取し、バランス良い食事と必要に応じ適正なサプリメント(可能な限り国産品推奨)等を補助的に利用する
適切な食事とヘム鉄サプリメントなどを選択することで、月経のある女性や妊娠中・産後必ずと言っていいほどおこる貧血を予防することも可能
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